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特別対談 第5回 田坂広志(多摩大学大学院教授・田坂塾塾長)× 岡部倫典(大阪青年会議所)

国際情勢やビジネス環境が激変する21世紀において、これまで以上に、技術や商品、サービスやビジネス、企業や組織、市場や産業、地域や社会など、様々な分野でのイノベーション(変革)を牽引していく人材が求められている。今号の理事長対談のゲストは2015年に大阪青年会議所主催の『大阪変革塾』の塾長を務められ、現在も知の指南役として大阪青年会議所をご指導くださっている田坂広志氏。大阪を、そして日本を変革するために何が必要なのか、大阪の未来を担うリーダーに求められる知性とは何か。21世紀の変革リーダーが身につけるべき「7つの知性」について伺った。

目の前の現実を変えるために必要なのは、「7つの知性」。

理事長 今日は貴重なお時間をいただきありがとうございます。先生が提唱していらっしゃる「21世紀の知性」は、先行き不透明な今こそ必要なのではないかと感じています。現実を変革するために求められる「知の力」について、そのエッセンスをお聞かせください。

田坂氏 私は、近著『知性を磨く』(光文社新書)において、21世紀の変革リーダーに求められるのは「7つの知性」であると申し上げました。7つの知性とは、「思想」「ビジョン」「志」「戦略」「戦術」「技術」そして「人間力」です。この7つの知性をバランス良く身につけていなければ、世の中や目の前の現実を変えることはできません。大阪の地で、大阪JCに集まり、世の中を良きものに変えていこうという志を持つ方々は、ほとんどが経営者でありリーダーだと思いますが、これらの方々が本当に世の中を変えていこうとするなら、この「7つの知性」を垂直統合して身につけることが必要になります。

理事長 それぞれの知性について、お聞かせ願えますか。

田坂氏 まず「戦略」ですが、企業や市場、産業や地域を変革するためには「戦略が必要だ」とよく言われます。しかし、それだけでは目の前の現実は変えられません。それを本気で変えようとするなら、戦略を立てると同時に、残りの6つの知性が必要になります。なぜなら、戦略とは、「戦いを略(はぶ)く」と読むからです。すなわち、戦略思考とは、いかに無駄な戦いをしないかという思考なのです。
ただそれは、組織の資源を無駄に使わないということだけではありません。最も重要なことは、部下や社員のかけがえのない人生の時間を一瞬たりとも無駄にしないという覚悟です。そういう覚悟がなければ「戦略」に魂が宿らない。変革リーダーは、まず、そこを理解すべきでしょう。

理事長 「戦略」において最大の効果を発揮するためには、どうすればいいでしょうか。

田坂氏 そのためには「追い風を活かす」ことが必要です。追い風とは、世の中の変化のこと。市場や社会がAからBに変化する、その変化の風を活かして変革を仕掛けることが戦略思考の要諦です。
しかし、そのためには、世の中がどの方向に変化するかの「ビジョン」を持っていなければならない。かつてデジタル革命の初期に、あるフィルムメーカーの方が相談に来られました。今後もお客様にフィルムを使ってもらうにはどうすればいいか、その戦略を教えてほしいと言われるのです。しかし、それは「向かい風」の戦略です。ご承知のように、デジタル革命の結果、いまやフィルムを現像する人はほとんどいなくなりました。「ビジョン」というのは、これからの世の中の変化を深く洞察する力です。そして、その洞察のために必要なのが「思想」です。今日は時間が無いので、この「思想」について詳しく話すことはできませんが、これを学びたい方は、拙著『使える弁証法』や『複雑系の知』などを読んでください。

理事長 先生は「戦略」を「戦術」として実行することが大切だとおっしゃっています。その実行において留意すべきことは何でしょうか。

田坂氏 「戦術思考」とは「戦略思考」とは異なり、すべてを固有名詞で考える思考です。どの会社の、誰に、どのようなチャンネルでコンタクトするのか。そのとき、競合企業との関係や社内事情をどう考えるのか。固有名詞のレベルで具体的に検討しなければ物事は進みません。そして、こうした検討において重要なのが、人間や組織というものの泥臭い現実を、どれほど知っているかです。昔から「現場経験」の大切さが語られ、「若い頃の苦労は、買ってでもせよ」と言われたのは、一つには、こうした人間と組織についての叡智を身につけるためです。青年会議所のメンバーの皆さんは、どなたも、日々の仕事で、その泥臭い現実と格闘し、ご苦労をされていると思いますが、その苦労がすべてこの叡智に結びついていることを知って頂きたい。

コミュニケーションの8割は「ノンバーバル」。

理事長 「戦術」の次に必要な知性である「技術」とは、どのようなことを指すのでしょうか。

田坂氏 「技術」で最も大切なものは、コミュニケーション技術です。しかし、それは決して、パワーポイントの作り方や企画書の書き方というものではないのです。実は、最も重要なことでありながら皆が理解していないのは、「コミュニケーションの8割はノンバーバルだ」ということです。すなわち、言葉を超えて相手に伝わるコミュニケーションこそが本質なのです。具体的には、例えば「面構え」です。相手の面構え、眼差し、身振り、仕草、雰囲気を見ると、相手の人物がよく分かります。例えば、会社に業者が来て色々な売り込みをしても、まずは、商品よりも相手の人物を見ますね。

理事長 そうですね。確かに印象から得る情報が多いです。私の面構えも気になりますが(笑)、どうすればそれを磨くことができるのでしょう。

田坂氏 それが、最後の「人間力」とつながってくるわけです。面構えというのは日ごろの心構え、心の姿勢、心の置き所がそのまま出ます。たとえば、お客様に対して「今日も売りつけてやろう」などと思っている人の心は、どれほど礼儀正しそうに振る舞っても、必ずお客様に伝わります。だから、かつて私が営業担当者だった頃は、お客様のビルに入る時には必ず「〇〇部長、〇〇課長、今日も貴重な時間をいただきます。ありがとうございます」と心の中で唱えてから入ることを修行としていました。こうした心の姿勢もまた、お客様に必ず伝わります。これを日々の習慣とするだけで、「人間力」が磨かれていきますから、皆さんにも、ぜひこの修行をやっていただきたい。 
以上述べた「7つの知性」を、大阪JCの方々には、ぜひ、身につけてほしいと思います。

青年会議所の役割は「スーパージェネラリスト」を育成すること。

理事長 私が日頃から大切にしているキーワードに「共生」があります。青年会議所だけですべてがうまくいくというわけではなく、私たちの思いに共感してくださる方々、団体等と共に大阪を良くしていこうよと動いている最中です。大阪府では万博の誘致も始まっていますし、これに私たちも賛同し、大阪を良くするきっかけにしたいと思っています。

田坂氏 日本青年会議所の役割は、いくつかありますが、最も重要な役割は、やはり人材育成だと思います。青年会議所は四十歳で卒業ですが、人生百年時代において四十歳までというのは、プロとしても、人間としても最も鍛えられる時代です。
昔から「四十にして惑わず」と言いますが、四十歳になると、仕事でもそれなりの力も身につき、志も定まり、腹を据えて「よし、世の中を変えよう」と動き出すことができます。そして、さらに四十歳を超えて、「7つの知性」をバランス良く身につけた「スーパージェネラリスト」を目指していただきたいのです。確か大阪JCは日本最大の青年会議所ですね。

理事長 はい、今年は1000名近い現役会員で構成されています。

田坂氏 それはつまり、世界で最大のJCということですね。すなわち、大阪JCは、世界の中心にありながら、青年経済人という人材育成を担う存在です。そうだとすれば、「日本や世界において、これからどのような人材が育つべきかを知りたかったら大阪に行け。そこには、素晴らしい人材が育っている」と言われるようなJCになっていただきたい。2015年に大阪JCの皆さんと共に開講した『大阪変革塾』は、まさにそれを目的として立ち上げたものです。

理事長 先生のおっしゃるように、これからの時代の人材のあるべき姿は、私たちが指し示していかなければなりません。そもそも、大阪JCのメンバーは根本的な力や個性を持っています。この力を発揮すれば、素晴らしい形になるのではないかと期待する一方で、そのスイッチを入れることの難しさを感じています。

田坂氏 それには、高い志を掲げたプロジェクトを立ち上げることです。志こそが、メンバーが力を発揮する原動力になり、志があれば、自然にいろいろな力が身についていきます。そして、メンバーを成長させるためには、何よりも、リーダー自身が成長することです。リーダーが成長しようとする組織では、メンバーも成長します。最高の叡智は後姿から伝わるからです。

日本においてソーシャルビジネスとは、「白い白鳥」。

理事長 先生は「社会起業家論」がご専門でいらっしゃるのでお聞きしたいのですが、最近注目を集める「ソーシャルビジネス」が人や社会に与えるインパクトについてどうお考えでしょうか。

田坂氏 「ソーシャルビジネス」が社会に大きなインパクトを与えるとされる理由は、資本主義のあり方を変えるからです。近年の日本ではウォールストリート型のグローバル資本主義が浸透し、企業経営者の役割は収益を最大化し、株価を上げることだという浅薄な経営論が流布されてきました。しかし、先のリーマンショックを挙げるまでもなく、こうした資本主義の在り方は世界中で壁に突き当たっています。そうした時代において、経済活動とは、本来どうあるべきかを問うのがソーシャルビジネスなのです。ただ私は、ソーシャルビジネスと聞くと「白い白鳥」と言っているように聞こえます。

理事長 それは、どういう意味でしょうか。

田坂氏 日本人にとってビジネスとは、本来、ソーシャルなものだからです。しかし、白鳥が自分が白いことを忘れたら「白い白鳥」と言わざるをえない。
ビジネスがソーシャルであることを忘れたからソーシャルビジネスという言葉に注目が集まるのです。
昔から、私たち日本人は、世のため人のために事業やビジネスを行ってきた。ソーシャルビジネスという言葉は、我々が忘れ去ってしまったその思想を思い起こさせてくれるという意味で、インパクトがある言葉だと思います。

理事長 それは、日本人は元来、誰もが「社会起業家」だ、ということでもありますね。

田坂氏 その通りです。日本人なら皆、世のため人のためという思いを持っている、誰もが社会貢献を考えています。そして、昔から日本型経営は「企業は、本業を通じて社会に貢献する」という思想を語っています。しかし、ここ十年、二十年でグローバル資本主義の影響を受け、その思想を忘れてしまった。だから今こそ、この思想を、もう一度思い起こすべきでしょう。

理事長 大阪JCでは月に一度、自分達の社会的意義を活かして社会に貢献する『M1ボランティア大阪』という活動を行っています。メンバーだけでなく『Osaka Fun Fan Club』の方にも声をかけ、少しずつ輪が広がっています。

田坂氏 それは、素晴らしい取り組みですね。日本では昔から「働く」とは「傍(はた)を楽(らく)にすること」と言われます。すなわち、日本人の労働観には、本来、社会貢献の精神が含まれているのです。そして、誰もが「働き甲斐」を求め、生涯働きたいと思う。この素晴らしい日本の資本主義思想を、もう一度復活させるためにも、社会起業家を育てていくべきであり、ソーシャルビジネスを育てていくべきでしょう。

大阪が地方創生のモデルケースに。

理事長 これから大阪の未来を考えるうえで、大阪は「第二の都市」という観点を捨てるべきだと考えています。アジアの中で注目される都市に進化しなければ、日本において大阪の存在感を発揮できないと思うのですが、先生はどう思われますか。

田坂氏 東京一極集中の現状において、大阪は、もっと輝くべきでしょう。それは大阪のためだけではない。地方が、いくら東京を模倣しても、地域を活性化することはできません。新たな地方創生のモデルケースが求められています。現在の地方創生の議論は、「貨幣経済」(マネタリー経済)の視点だけで見る傾向がありますが、地域の真の豊かさとは、マネタリー経済だけでなく「ボランタリー経済」が活性化していることです。それは、文化人類学で「贈与経済」と呼ばれるものであり、例えば、家事、育児、家庭教育、老人介護、地域の治安・清掃など、この社会を陰で支えている経済です。そして、このボランタリー経済においては、金融資本ではなく「目に見えない資本」が動いています。それは、知識資本(人々の知識や智恵)、関係資本(人々の縁や絆)、信頼資本(人々の信頼)、評判資本(地域での良き評判)、文化資本(地域の個性的な文化)などです。大阪は、東京が忘れてしまった、この「ボランタリー経済」と「目に見えない資本」を重視した地方創生をめざすべきでしょう。

理事長 大阪の文化資本というと「おせっかい」や「人のあたたかみ」があります。大阪の人はとにかく相手のことを気遣って、いろんなことをやろうとします。そういう部分を私たちが良い方向に拡大していけば、東京とは違う路線で新たな都市を築くことができますね。

田坂氏 大阪には、日本の資本主義を変えた、豊かさの定義を変えたと言われるような地域として発展して頂きたい。以前、どの都市も「ミニ東京」になろうとした時代がありましたが、すべて壁に突き当たりました。だから東京とは違う豊かさを、東京とは違う資本主義の在り方を通じて実現することが、これからの大阪の役割と思います。岡部さんが言われる「人のあたたかみ」は、東京ではどんどん失われてきています。逆に地方には、温かい文化や親切な精神が、まだ、たくさん残っていますね。

理事長 大阪特有の資産が大阪の魅力に変われば、「大阪に行けば何か良いことがある」と思ってもらえますね。

田坂氏 そうですね。日本の二千年を超える歴史を振り返るならば、この国の中心は、ずっと関西だったのですね。東京や関東が中心になったのは、つい最近のことです。その意味で、大阪や京都を始めとする関西は、日本文化の中心という意味で、もっと誇りを持っていいと思います。また、関西には何百年という長い歴史を持つ企業が数多くあります。長くお客様に支えていただける、長く続くということは素晴らしい企業価値です。そうした価値を大切にする日本型経営を復活させることも、大阪や京都、関西の役割だと思います。

理事長 先生にそう言っていただけると勇気が湧いてきます。

田坂氏 この日本という国には、世界に誇るべき深い思想や精神、文化や伝統があります。21世紀に、それを新たな形で復活させることが大阪や京都、関西の役割と思います。全国各地から、「大阪のように『目に見えない豊かさ』を大切にする地域をめざそう」と目標にされる都市として、大阪がこれからますます発展していくことを願っています。

理事長 大阪を豊かにしていくことが私の今年のテーマであり、大阪JCの目指すところでもあります。私たちがリーダーとしてどう活躍していくか、今後も精一杯取り組まなければと改めて思いました。田坂先生、今日は貴重なお話をありがとうございました。

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