人と社会が調和する
大阪の創造– 自らを超越せよ 今を生きるすべての人のために –
「人間は、目標を追い求める動物である。
目標へ到達しようと努力することによってのみ、人生が意味あるものとなる。」
万学の祖と称されるアリストテレスの言葉は、「生きるために何をするのか」から「何のために生きるのか」へと人生の価値観がシフトしてきた現在、時代を超越した普遍的な真理を表しています。自らのエネルギーを最大化する大いなる野心を抱き、それを叶えるため圧倒的な努力を絶やさず、共に成長する人びとと響き合えば、自我を超えて周囲・社会を想う精神的成熟へと向かいます。無気力・無関心は個の成長を阻み、馴れ合いともいえる同調しか生み出しません。多様な個性の不一致から価値観が互いに影響し合い、矛盾や衝突が超克されることで、全体がより高次の存在へと最適化します。今こそ、自らに与えられるあらゆる事象に価値を見出し世界との一体化を志向する自己超越の精神を育み、多様であることから自然と調和が生まれる、人と社会が調和する大阪を創造します。
はじめに
戦後の日本は、荒廃した国土の復旧、経済の復興、国際社会への復帰という大いなる野心のもと、勤勉な国民性とも相まって目覚ましい経済成長を遂げました。大阪の歴史を紐解いても、古代から近代にかけて、政治都市、宗教都市、商業都市へと変遷し、明治以降は、一旗揚げようとする野心をもった人材が、全国各地から集うことで多くの起業家が生まれ、様々な事業を興したことにより産業が集積し、工業都市として経済の基盤が確立しました。大阪のまちが、時代の潮流に応じて、絶えず変化しながら発展してきたのは、自己超越の精神が根付き、多様な個性が響き合い、社会と調和してきたからに他なりません。しかし、現在、脱成長やミニマリズムなど、欲望を抑えることが美徳かのような空気感が蔓延し、野心は鳴りを潜めています。リスクを恐れるがあまり、変化を避ける傾向が顕著であり、現状維持を選択することが経済成長・教育改革の停滞を招き、大阪、日本は時代から取り残されつつあります。
これからの世界は、指数関数的な進化を遂げたテクノロジーによって、これまで明確な境界線があった身体と精神、生命と機械、自然と人工、現実と非現実、生と死の区別が曖昧となります。これにより、人間の精神が身体から独立することで、個人は異なるアイデンティティを有する分人を複数内包した人格を形成すると共に、人間の環世界が拡張することで一種のパラレルワールドが現実化します。
私たちは、個が活躍する場が無限に拡がるフェーズに到達した時代の転換期において、既存のシステムや同質性を偏重する価値観に囚われず、多様な個性がありのまま響き合う都市へと柔軟に変化させていかなければなりません。未知なる世界への好奇心を絶やすことなく、自尊心を胸に互いの価値観を認め合い、探究心をもって物事の本質を追い求める自己超越の精神によって、人と社会が調和する大阪を創造します。
子どもの自律性を育む環境の構築
「自分は社会に責任を有する大人である」「将来の夢がある」と回答した日本の若者は他国と比較しても圧倒的に少ない結果となっており、社会に対する当事者意識、主体性の欠如が露呈しています。これからの社会では、限られた物質的環境のなかで効率性を追い求めるのではなく、無数に拡がる多元的な世界において、自らの軸に基づいて主体的に行動することが求められます。多様な価値観をもつ子どもたちが個性を伸ばし活力みなぎる人材へと成長し、変化する社会環境に柔軟に対応するためには、自律性を育む社会環境を構築していかなければなりません。
効率性に重点を置いて解を導きだすこれまでの教育スタイルに固執することなく、社会にどのような課題が存在するのかという問いを的確に立て、その解決に向けて行動する能力を育成することが必要です。世間の同調圧力や時代背景の異なる大人の価値観に囚われることのない大胆な教育改革を行い、与え続ける教育から自ら考える環境へと変化させることが子どもの成長に資するのです。また、大人がバイアスをもって子どもと接することにより、これまでの価値観やマジョリティから外れた個性をもつ子どもが社会から排除される事態が生じており、社会全体で支援する体制も必要です。大人の無意識を表出することで課題を明確にし、子どもの成長に対する努力を怠ることなく優れた教育を実践していかなければなりません。私たちは、いかなる状況においても子どものあるがままの個性を受けとめ、共に成長することへの探究心をもって思考を磨き上げ、他者からの支配や強制を受けることなく確立された軸で行動する自律性を育んでいきます。
「LIFE AS VALUE」の実現
現在の大阪は企業流出に歯止めがかからず、成長分野への産業構造の転換が遅れるなどの課題を抱え、GDPの全国シェアは長期低落傾向が続いています。また、将来の人口、生産年齢人口の推移をみても、関西は他の地域と比較して減少スピードが早いと予測されており、都市のプレゼンスを高めることが喫緊の課題といえます。すべての人びとに活躍の機会が生まれるこれからの社会においては、多様な価値観が等しく尊重され、生涯を終えるまで自己実現に向けて取組むことができる環境を構築し、その人らしく生きていることが価値となる世界「LIFE AS VALUE」を実現していかなければなりません。
大阪の強みである中小企業の変革や健全な発展を図ることにより、これまで活かされてこなかった多様な労働力を創出することは、急激に変化する社会に柔軟に適応することにつながります。企業は働くことの価値観が多様化していること、経済構造が根底から変わることを的確に捉えて変化しなければなりません。また、大阪から老若男女、国籍を問わない新たな文化を創造することで、多様性を強みとしてきた都市の魅力をアピールすることも必要です。1970年の大阪万国博覧会は、私たちの生活を激変させた多くの物質的なイノベーションを創出しました。人びとの生活レベルが一定程度満たされた現代社会においては、企業と働く人びとの在り方を再構築するとともに、拡張する環世界に向けた新たな文化を創造し、大阪が日本そして世界に未来のライフスタイルを示していきます。私たちは、いま一度、生きることの意味を見つめ直し、互いの価値観を認め合う自尊心を育んでいきます。
国家を超越した普遍的文化を創造する人材の育成
現在の世界情勢をみると、ロシアによるウクライナ侵攻、台湾問題をはじめとする地政学的リスクが至るところで生じており、地球という限られた枠組みのなかのコミュニティである国家間においては、複雑な利害関係が絡み合い、意志・思考・感情は響き合うことなく反発しています。経済的側面においても、先進国の豊かな生活を支える成長の裏側では、地球規模の環境汚染、発展途上国の劣悪な労働環境などをはじめとする負の外部化が生じており、人が生まれながらに有する人権があまねく保障されているとはいえない現実があります。世界中のすべての人びとが取り残されることなく自己実現を追求できる世界を構築するには、人びとの思考が国家という既存の枠組みに捉われることなく根底から変化していかなければなりません。
「誰もが自分自身の視野の限界を、世界の限界だと思い込んでいる。」ショーペンハウアーが残した言葉は、人間が有する可能性を示唆しています。その鍵となるのは地球という枠、そして、物質性に限定されたこれまでの思考の枠を超えて、テクノロジーの進化により生まれる身体性を解放した世界、そして、宇宙という新たな物質的な世界を踏まえた環世界の構築です。すべての人びとが国家という枠組みを超えて世界市民として調和していく社会を構築するためには、世界というものを自然、デジタル、宇宙とこれまでより拡大した世界観をもって捉える視点が必要となります。私たちは、物質的・身体性が拡張された未知なる世界を想像する好奇心をもち、人びとが共存する未来を思い描き、国家を超越した人類の普遍的文化を創造する人材を育成します。
青年会議所よ 超越せよ!
私たち大阪青年会議所は、設立以来、日本そして世界中に築き上げた組織に対する信頼を根幹として、都市に存在するあらゆる叡智を結集することで、時代の変化に先駆けて躍動感あふれる革新的な運動を展開してきました。しかし、今後の人口動態として青年が減少していくことは確実な状況にあります。加えて、情報交換の手段が発達したことで人がつながることが容易になり、多様なコミュニティが存在する社会においては、青年会議所とは何か、青年会議所らしさとは何なのかを見つめ直し、確立した組織のブランディングを軸として、大阪に自己超越の精神をあふれさせなければなりません。
メンバーの価値観、立場や目的、時間・金銭のリソースによって青年会議所への期待感や関わり方は異なることから、メンバーの数だけ理想の青年会議所像が存在します。だからこそ、多様な個性が刺激を与え合い、各々が自己実現に向けて取組むことができる多様性が根付いた組織へアップデートすることで社会の変化を的確に捉え、超越した個が響き合う社会を構築していきます。
そのために、メンバーの思考を磨き上げ、互いに切磋琢磨する機会を創出すると共に、組織の資産を活かしたコンテンツの充実、行政・民間企業との連携、そして、世界に拡がるLOMとの連携構築の起点となり、新たな可能性を発信していくことで、自己超越の精神を融合させる中核的な役割を担い、人と社会が調和する大阪を創造します。
恐れや不安、期待や希望を超越した感情が生まれてくる世界
一日一日を、たっぷりと生きていくより他は無く、明日のことを思い煩わず、きょう一日を、よろこび、努め、すべてに優しく暮していこう。
一般社団法人 大阪青年会議所
第73代理事長