活動報告

相次ぐ大規模災害、富の不均衡と格差、人種・民族問題と政治的分断など、混迷の深まる今日の世界。一方、国内では人口、経済を始めあらゆる面で東京一極集中、という事実に日本各地からの不満が囁かれて久しい。こうした状況の中、大阪はどんな力を発揮できるのか。著書に未来予測分析『メガトレンド2016-2025』、日本の国力に着目した『オタクで女の子な国のモノづくり』を持ち、アジア各国の政府機関からの招聘を受け、ブランディングなどの支援を行う川口盛之助氏に聞いた。
大阪の感覚は「世界各国のセンスに近い」。
神戸出身で18歳から東京に拠点を移した川口氏の目から見て、東京は首都であり、もちろん日本の中心でありながら、文字通り「東の中心地」であるのに対し、大阪が関西の中心なのかというと少し違うという。「大阪は……雰囲気としてはアジアだよね。いいとか、悪いとかではなく、レアであることはひとつの価値だと思う。そして、大阪は日本のほかのどの都市とも違うんだよね」。東京をはじめとして、世界的にイメージされる「日本らしさ」は、「目立たないようにして、愚直に仕事します…というような、マジメ攻めだが、大阪には「笑かしてナンボ」という文化があり、それは、世界各国のセンスに近いと感じていると川口氏は言う。
例として、川口氏は以前にたまたま観たテレビ番組の内容を挙げた。日本から、いかついおっさんや、ガングロギャルなど、一見強そうな人々を海外に連れていく。そして、それぞれレストランで注文をするのだが、そこで注文とは違う商品が次々出てくるという仕掛けだった。見た目に強そうでも、ほとんどの日本人が「ここでクレームしたらまた時間もかかって一緒にいる人に迷惑がかかるだろう」などと配慮して、空気を読んで「まぁいいか…」という対応になってしまう中で、唯一グローバルスタンダードな振る舞いができた、つまり「これ、ちゃうやん!これ頼んだヤツより高いやん!!」と言えたのが、大阪のおばちゃんだったという。この「負けない感」は大阪ならではのパワーであると。
大阪人が「まず疑ってかかる」のは個が確立しているからこそ。
また、大阪人の距離感も大きな武器だと、自らの過去の体験を語ってくれた。同じ会社の人と打合せの日時を決めるシーンで、川口氏が「いや~、水曜日はちょっと…」と言うと、相手の方が手帳を覗き込んで「あ、ここ、木曜あいてますやん」と当然のように言ったことにショックを受けた。「ええ~、人の手帳、見るなや!」と思いつつも、これがなんとなく許されてしまうのは「大阪弁」のなせる技だと感じたと話す。自然体で、流されずに自分の意見を言えることは、大きな切り札であると。
大阪人は、ややもすると、エグい、空気を読まない、と思われる面が多々ある。事ほど左様に、日本で美徳と言われるものは、たいがい、「大阪的」ではないものだったりする。この「大阪人は違っているよね」という事実を良いことと捉えるのか、悪いことと捉えるのか、という場面においては、もしマイナスに捉えたら、ただ「イタイ」だけ。今あるリソースの価値を最大化するのが大人の役目なで、当然良いことと捉えるべき、という川口氏。
メディアリテラシーにおいて「お上」にとても弱く報道でも何でも信じてしまう人が多い日本において、大阪人のまず疑ってかかる、そう簡単にはお金払わない、というあり方が、「狡い」のではく、確立している個々の価値判断や基準の上に立っているのであれば、とても希望が持てると力説する。
大阪が目指すべき未来は、アジアと世界に開けた都市。

東京は都市の規模的に極めて珍しい「スラムがほぼない都市」であるが、大阪は、世界の各都市と同じく、日本の中では少なからず移民や貧困の問題も抱えている都市である。つまり、大阪は世界の都市と同じ悩みを持っている。そのような負の面も含め、グローバルな都市であると言えると、川口氏は捉えている。
「東京みたいなものを目指すのは、やっぱりナンセンス」と言い切る川口氏。同じ、沈みゆく船に乗っている東京に対抗してもはじまらない。今、圧倒的に伸びているのは「アジア」なので、大阪は東京に対抗するのではなく、アジアに対してどれだけゲートウェイになれるのか、にかかっているという。
冷静に見て大阪の価値を外の人がどう見ているのか、ということに着目しなくてはならない。たとえば、PPAP(1)が今、世界で受けている。年配の人をはじめ「これが日本なんだと思われたくない」と感じている人は少なからずいるだろう。しかし、古い世代も含め誰もがなんとなくいいと感じているものが受けるようでは、何も変わっていないということ。それでは終わっている。成熟した社会になってきてやっと生まれ出た「花」は咲かせなくてはならない。サブカルチャーというのは、そういうものだと述べる。
大阪がいかにプレシャスなものか、そしてそれを天然記念物にしてしまわないためには、その価値を最大化しなくてはならない。そのロジックを理解しないと未来は見えてこない。バブルが弾けた後に生まれ、将来への希望があまり持てない若い世代には厳しいところもあるかもしれないが、まだ栄えていた時代を知っている40代くらいには、わかると思うので、ぜひ若者も巻き込んで世界へ開かれた都市、大阪として踏ん張ってほしい。川口氏の大阪人のエールには熱い説得力がこもっていた。
※(1)「PPAP」Youtubeの動画再生で驚異的なヒットを記録し、「Billboard Hot 100にランクインした最も短い曲」としてギネス世界新記録を達成した、お笑い芸人ピコ太郎の音楽動画。