特別対談 第3回 安藤忠雄(建築家・東京大学名誉教授)× 岡部倫典(大阪青年会議所)

「世界のANDO」として、日本、ヨーロッパ、アメリカ、中米、アジア各国のあらゆる重要建築プロジェクトを成し遂げて来た、稀代の建築の巨人・安藤忠雄氏。その安藤氏が拠点を構えるのは生まれ育った大阪の地。東京には目もくれず、大阪から国内各地、世界へと発信し、挑戦を続けるその姿は、大阪JCメンバー全員の目標とするところ。去る4月8日(土)には、グランフロント大阪北館ナレッジシアターで行われた大阪JC入会式・新人セミナーにてご講演頂き、新たな若き会員たちへの激励の言葉を頂戴しました。セミナー終了後、別室にて大阪JC・岡部理事長との対談を実施。1969年の安藤建築研究所設立から48年目を数え、間もなく76歳を迎えられる今も新しい挑戦を続ける安藤氏に、ご自身の大阪へのこだわりと想い、そして今とこれからの大阪への提言をお聞きしました。

東京へは行かず、大阪をずっと本拠地にして、世界でやってきた。

理事長 先生、今日は大変元気の出るお話をして頂き新人たちも励まされたと思います。有難うございました。引き続き対談させて頂きますが、どうぞよろしくお願い致します。

安藤氏 いやいや、どうも。よろしくお願いします。

理事長 今日は先生に「大阪への想い、大阪への提言」というテーマでお話をお伺いさせて頂きますが、まず何より最初にお聞きしたいのは、先生ご自身の大阪へのこだわりです。初期の「住吉の長屋」発表以来、次々と目覚ましいご活躍をされ、その間行こうと思えばいつでも東京に行くことは出来たと思いますが、ずっと大阪に事務所を構えておられますね。

安藤氏 まあ、大阪生まれの大阪育ちですからね。東京に行きたいと思ったことは一度もないわけですよ。東京というのはサラリーマン社会。要するに学歴社会です。私のような学歴のないものは相手にしてくれないと思いました。一方、大阪には自由がある。それだけではない。中之島公会堂、御堂筋。世界に誇れる立派なものが多くある。大阪から、世界へ発信していけばいい。そういう思いで40年間やってきました。

理事長 ご講演の中でも「勇気を持って、ビジョンを持ってやれ!」とJCメンバーを励まして下さいました。

安藤氏 そうですよ。明後日、BSフジの番組で京大の山中伸弥教授と対談しますがね、山中先生も「いろいろ失敗もしましたが、先を見て、ビジョンを持ってやって来たから、今日までやれて来れた」と言っておられました。あの人も大阪人です。こういう人がいる大阪はいいな、と思いますね(笑)。

理事長 そうですね。大阪には自由がありますからね。実は先生、今日、青年経済人205名が新たに大阪JCに入会しました。

安藤氏 すごいですね。大阪JCは確か一番大きいんですよね?

理事長 トータルで1100人程になります。ただ、いろいろ夢は持っていても、チャレンジに一歩踏み出さない人も多いんですよ。一歩踏み出すための力になる原点は何でしょうか?

安藤氏 まず自分を信じること。それから社会に必要なものは何かを考える。失敗を恐れることはないんですよ。失敗したら、考えますからね。それで答が見つかる。それから全力投球していけば必ず良くなる。

「自由で、勇気があって、面白い奴に仕事を頼みたい」と考えた、関西財界の巨人達。

理事長 勇気が出てくる言葉です。次にお聞きしたいのは、大阪の良いところ、そして悪いところなんですが、いかがでしょうか?

安藤氏 東京との比較が解りやすいから、言いますけど。最初に言ったように、東京はサラリーマン社会。まあ組織社会です。大阪は、まず個人がある。一人一人の個人が生きられる街です。そこが良いところ。逆を言うと、だからなかなか組織ができない。そして国際感覚がない。これが悪いところですね。

理事長 なるほど。ただ、その面白い個人を応援する「旦那文化」もあるんじゃないですか?

安藤氏 昔はね。確かにそれはあった。私の時も「自由で、勇気があって、面白い奴に仕事を頼みたい」と考えた関西財界の方々がおられた。サントリーの佐治敬三さん、三洋電機の井植さん、京セラの稲盛さん、アサヒビールの樋口さん。そういう人たちとのコミュニケーションの中で仕事を続けて来られた。これからもそういう人たちが出てきてくれたらいいな、と思いますね。

理事長 今も公のことを考える企業文化というのは大阪には残ってますよね。

安藤氏 あるね。山中先生も毎年企業がiPS細胞の研究に50万円ずつ寄付するという提案をされたわけだけども、大阪ガス、阪急阪神、近鉄、サントリー、続々と2週間で50社が集まった。最終的には210社になったというから、驚きますね。これは東京では絶対に集まらないと思いますよ。

世界観、「地球は一つ」の認識、インテリジェンスが必要。

理事長 逆に、先ほど仰っておられた「個人」という観点からはどうでしょうか?たとえば、公共心というのはどうでしょう?

安藤氏 これはないんです(笑)。個人があるというのは、公共心がない、ということでね。だからお金もなかなか出したがらない。しかし、そのどれもバランスが大事なんですね。

理事長 そうですね(笑)。一方、今インバウンドで大阪にどんどん世界から人が来ています。またインフラの充実という部分もあります。ただこのままでいいのか、という部分もあると思います。今後大阪を本当に押し上げていく起爆剤になるものは何でしょうか?

安藤氏 今のインバウンドというのは、時代の流れ、社会の動きということでそうなっているわけで、特に大阪が何かしたからということでもないんですよ。これは考えとかないといけない。本当に必要なのは、世界観です。地球は一つという認識が不可欠なんです。だから大阪も、世界の中の大阪という視点で考えないといけない。

理事長 大阪から世界へ、ですね。

安藤氏 大阪と世界です。たとえば、先日韓国の企業家からダイキン工業の社長を紹介して欲しい、と言われました。ダイキン工業の空気清浄機を買いたい人がいる、と。ニューデリーの企業人らしい。今、世界の都市で大気汚染が一番ひどいのは、ニューデリー、次に北京、そして上海、ソウルだと。このニューデリーの人はこれまで空気清浄機を買ってずっとニューデリー市に寄付してきた、と。こういうように世界は関係している。地球は一つなんです。大阪でも、こういう環境に対する意識が必要なんですね。

理事長 環境は本当に大事ですね。先ほどの公共心という点から言いますと、大阪JCも「御堂筋1000人清掃」をやって、大阪の環境に貢献するべく頑張っています。

安藤氏 それはいいことです。

理事長 大阪人にはアイデアはあると思うんですよ。昔からアイデア商品が生まれて来たのは大阪ですから。しかし、マーケットは結局東京に持っていかれてしまう。

安藤氏 東京はシステムの中に留まっているからアイデアは出ない。大阪には生きる喜びがあるから、アイデアは生まれる。しかし、知識が足りない。だから、インテリジェンスも必要なんです。それが想像力を生む。世界への視点も生むわけです。今後、教育もここに力を入れていかないといけないと思いますよ。

大阪はプライドの持てる街。大阪のために自分に何ができるかを考え、行動する。

理事長 今日は先生のスケールの大きいお話に改めて啓発を受けました。最後に、これからの大阪への提言をお願いします。

安藤氏 最初にも言いましたが、御堂筋、中之島公会堂、日銀大阪支店、そして水の都としての大阪はプライドの持てる街だったんですよ。それから、戦後大阪で生まれた企業、積水ハウスとか、大和ハウス、他にもいっぱいありますが、これらの企業はみんな面白い。東京とは違い、個性があり、リーダーシップがある。そういう大阪を愛する気持ちが大事ですね。大阪を想えるように、個人個人が何が自分に出来るかを見据えて、一歩踏み出す。個人の力を結集し、公共心を持ち、ビジョンを持って、一歩前に踏み出す。そうすれば必ず大阪は良くなります。

理事長 私も全く同感です。先生、今日は本当に有難うございました。

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