特別対談 第4回 川田十夢(AR開発者)× 岡部倫典(大阪青年会議所)

JUKIの就職面接時に書いた「未来の履歴書」で構想したWebデザインとサーバ設計、全世界で機能する部品発注システム、ミシンとネットをつなぐ特許技術をすぺて実現した川田十夢氏。退社後は、「AR 三兄弟」のユニット名で、AR 技術を使った「文豪カメラ」や「どこでもドア」など現実と仮想の境界を飛び越をる技術を開発。まるで未来映画さながらの夢のような技術を次々と実現する発想と実際の仕事で人びとを剌激しています。
去る6月14日(水)、帝国ホテル大阪で行われた大阪JCの月例会へ講師としてお招きしました。
その講演前に、大阪JC・岡部理事長との対談を実施。川田氏の発想の源、独自の感覚に迫り、大阪の今と未来を刺激し、再構築するアイデアと方法論をお聞きしました。

ARで人間の五感を拡張し人間の感覚を超えたものを享受する。

理事長 本日は、貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。早速ですが、川田さんはARの技術を使ってさまざまな試みを展開されていますが、きっかけは何だったのですか。

川田氏 わたしは、JukIという業務用ミシンメーカーで開発者として10年間働いていました。
その時、特許を取得したんです。それは、うまくミシンで縫った技術をアップロードし、他のミシンにインストールすると、最初から上手に縫える、という技術です。若かったので、浮かれて、その技術を世界中でプレゼンしていたら、ベトナムで「そんな発明をされると、上手に縫える人の職業が奪われてしまう。
私たちは文字が読めないから、針が折れた時、どこに発注していいのかもわからない。あなたならそれを解決できるでしょ」と言われたのです。叱られた気分になりました。それで、ミシンにカメラをかざすと、ミシンの品番から逆算してそのミシンに合う針を表示し、そのまま注文できるシステムを開発しました。それがARでした。

理事長 Googleの眼鏡もARですよね。カテゴリを選択して町中を歩くと、見たものの価格帯などの情報が出てくるシステムだったと思います。

川田氏 視覚はやりやすいのですが、僕がやっていることは視覚に限りません。触覚や味覚などの五感を拡張し、人間の感覚を超えたものを享受したり、空間はそのままに過去や未来に行けるツールとして開発しています。

そこにある雰囲気、重力、お客様を巻き込んでいくARに興味がある。

理事長 確かに、ARというと「見えるものの情報を提供するもの」という認識です。

川田氏 AR は、必ずしもテクノロジーを使うだけではありません。阪急百貨店梅田本店のリニューアル時のこけら落としで、「祝祭広場」に仕掛けたARは面白いものでした。大階段前に譜面台などを置き、お客様が指揮台に上がった瞬間、館内のBGM がピタッと止むんです。そして、指揮棒を振り上げると、大階段にお客様のふりをして座っていた大阪フィルオーケストラの演奏者が、演奏を始めるというものです。

理事長 112年前にはやったエアギターのようですね。

川田氏 そうですね。今のテクノロジーは、若い人だけが使おうとしていますが、本当はあまりテクノロジーが届いていないお年寄りが使ってこそ楽しいものだと思います。この企画をした時、あるおばあちゃんが祝祭広場に来てくれたんです。その方は指揮をした後、「私は音楽の先生か指揮者になりたかったけど、子育てに追われてできなかった。
でも今日、ようやく夢が叶いました」とすごく喜んでくれたんです。そういうことはAR じゃないとできない。モニターの中でやるのではなく、その場の雰囲気、重力、まわりのお客様といった現実を巻き込んでいくARに興味があります。

理事長 その企画は、ノリのいい大阪の特質に合っていると思います。私はそれが大阪の優位性だと思いますが、川田さんはどう感じていらっしゃいますか。

川田氏 おっしゃる通りで、この企画は、大阪だからこそやろうと思ったのです。大阪の人は、指揮棒を振ってくれると思いましたから。東京の人は、絶対にそういうことはやりません。注目を浴びた<ないんです。

理事長 大阪の人は、人を喜ばせたいという感性も優れていると思います。ただ、喜ばせたらそれで満足して、その先に進めない。もったいないな、と思います。川田さんはこの大阪の特性を、どのようにビジネスに結びつければいいと思いますか。

川田氏 町中で、定期的に面白いことが起こるとわかったら、町全体に活気が出ると思います。阪急百貨店では、ライオンキングで使われる打楽器を祝祭広場に置いて、誰かがそれを叩くと、大型ビジョンにキリンが映し出され、上手に叩くと、一幕演じられるという企画をしました。ちょうど劇団四季の『ライオンキング」のロングランが決まったタイミングでしたが、大阪では特に、広告と舞台などの境界をなくした方がいいと思います。

理事長 それができるのが、大阪なんだと思います。

川田氏 大阪はユニークですよね。たとえば、大阪では劇場が芸人さんを育てています。それは東京にはないことです。今、人工知能に囲碁をさせたりしていますが、芸人を育てる人工知能があれば、それを東京で芸人さんのトレーニングに使うことができます。そうした使い方をすれば、人工知能はもっと面白くなると思いますよ。

大阪万博が開催されてもされなくても、やっちゃえばいい。

理事長 今、大阪では万国博覧会の招致を進めていて、来年の秋には決定するようです。万博開催が決まったら、AR を使って大阪の強みを発信していきたいと考えています。

川田氏 万博は楽しみですね。僕は子どもの頃、筑波万博に行きました。会場では、科学と教養と夢のようなことが同時に起こっていました。覚えているのは、ロボットが譜面を見てピアノを弾いていたことです。衝撃でしたが、夢みたいなことでも結構できてしまうんだな、と思いました。だから今、この仕事をしているのだと思います。大阪の子どもたちが、あの夢のような世界を生で見たら育つと思いますよ。

理事長 生で見るという原体験は、将来につながりますよね。

川田氏 そうですね。ですから、大阪万博の開催が決まっても決まらなくても、やっちゃえばいいんですよ。企業がお金を出してパビリオンをつくるのとは別に、商店街や町ぐるみでちょっと面白そうなことが体験できるパビリオンをつくればいいんです。
いろんな芸を披露すればいいんじゃないでしょうか。

理事長 かなり、面白いことができると思います。

川田氏 実は僕、2009年からAR 忘年会というものをやっているんです。プログラマーなどいろいろな職業の人が、自分のプロフェッショナルな技術を使って、宴会芸を披露するんです。僕がTV 番組『情熱大陸」に出演した際に披露したネタも、すべて宴会芸から生まれたものなんですよ。人を楽しませてやろうと思った瞬間、ギアが入るんです。大阪の人はサービス精神が旺盛だから、パビリォンをつくったら、めちゃくちゃ面白いものになると思います。

青年の失敗は中年の活力になる。失敗を恐れずに、何でも挑戦すればいい。

理事長 今日は、川田さんから夢のような話を聞いて、大阪だからこそできることがある、と改めて勇気がわいてきました。最後に、大阪青年会議所にメッセージをお穎いいたします。

川田氏 僕は今に至るまでいろいろな失敗をしてきました。そういった苦い経験をしていると、中年になって「あの時、こうしていればよかったな」と未練が残るし、今までの失敗をなんとか取り戻したいと思うようになる。それでがんばって、仕事が大きくなっていきました。ですから、青年のうちは、失敗を怖れずに何でも挑戦したらいいと思います。僕の場合は、未練が中年以降の活力になっています。失敗はやがて栄養になるので、思い切ってやってください。

理事長 今日、お話を聞いて励みになりました。
本当に、ありがとうございました。

同じカテゴリの関連記事