熱狂対談 落合 陽一(メディアアーティスト)× 竹田 哲之助(大阪青年会議所 理事長)

アーティストや研究者、実業家など多彩な顔を持ち、 デジタル技術を融合させ、従来の概念を打ち破る作品を次々と発表し〝魔術師〟とも呼ばれる落合陽一さん。 今最も忙しい人とも言われる落合さんの貴重な時間をいただき、イノベーションとそれを実現する突き抜けた人材についてお伺いしました。

日本型資本主義の可能性とは

竹田 - 今や、欧米型の資本主義が限界を迎えて来ており、世界を持続的に発展させていくためには日本型資本主義を世界に広げていく必要があると私も感じているのですが、欧米型資本主義の限界と、日本型資本主義の可能性について落合さんのお考えをぜひお聞かせください。

落合 - 今の日本は人口的にみて撤退戦に突入していますよね。それにともなって生産能力も低下していくのは自然の摂理です。そんな状況下で欧米型資本主義が成立し得るのか?というのが一番の疑問なんですね。

たとえば国としてすべてに等しいインフラを設けて、それを中央集権的に配備していくという方針は、これからの日本では成立し得ないです。インフラの維持コストを中央で賄おうとすれば限界を迎えてしまいます。だから分散型にするしかないだろうというのが、今の国の方針なのだと思います。

同一のイデオロギーと経済によって、国境線の中で国民国家を維持するという方針が、果たして可能なのでしょうか。一方で、議会制民主主義が一票の格差の問題に象徴されるように、人口の局在によって大きく揺らいでいるのも事実です。

おそらく2040年ぐらいになれば、4500万人くらいが都市といわれる場所に住んでいて、残りの4500万人がその他の地方に分散して住んでいる時代になります。その場合、高齢化が顕著になるのはむしろ都市部だと思います。都市部が高齢化していけば、その意思決定プロセスが都市部の高齢層にだけ偏ってしまい、地方の高齢層は今にも増して発言力を失っていくわけです。

そうなったときに果たして国家としての合意形成が可能かというと、たぶん不可能だと考えます。英国や米国はしばらく人口が増加します。中国は2060年代からの減少傾向が予測されていますが、だとすると、今の我々の社会にとってヨーロッパ型とかアメリカ型ではない方針を取らざるを得ない状況になっているんです。EU諸国は同盟国内で人が移動するのは勝手なわけですし、移民をベースに人口が増加しているのは明らかで、アメリカはそもそもそういう多民族国家だった。

なのに日本のような、国境線を海で囲まれた国が同じようなアプローチをとれるのかといえば、絶対にNOだと思います。日本は歴史的に移民を受け入れにくい国だったのです。であれば、それを補強するには、機械化とコンピュテーショナルによるアプローチしかなく、そこに日本型資本主義の可能性をとても感じているのです。

 

日本の文化や伝統を重んじる大切さ

竹田 - 落合さんのお仕事や、創作活動を拝見させていただくと、最先端技術を駆使した研究に目がいってしまうのですが、日本の文化や精神性なども非常に大切にしておられる。そういった方向への造詣を深められた理由は、どういったところからなのでしょうか?

落合 - 僕のグローバルな規模での活動は大きく分けると3つありまして、アーティスト、ビジネス、そしてリサーチャーというものです。それらの活動において日本のことは全く考えていないです。

論文はすべて英語だし、ビジネスも世界中の人々を相手にしている。アーティストとしても、日本よりヨーロッパでの活動の方がずっと多いのが実情です。でもそうなると、逆にローカルという視点を持つことがより重要になってきます。

ローカルという意味で、日本での僕の活動を客観的に捉えると、大学教員であり、大学を運営する立場であって、日本の地域コミュニティーのデザインなんかをビジネスとしてやっている。

そんな環境の中で、日本の文化について深く知っていくというのは、アーティストとしての作品の背景や、その文脈について語る場合、不可欠でとても重要なことですから。

竹田 - なるほど、確かに海外ではそういった文脈の解説などは求められることが多いでしょうね。アートのお話が出たところで、落合さんは、ビジネスの現場でも、いわゆるMBAなどの知識だけではなく、アート的な素養も必要だと常々ご発言なさっていますよね。

落合 - それは、文化の持っている複雑性というものが工業化以降の日本の社会において非常に重要であると思っているからです。

工業化時代の本質は、エンジニアリングとデザインだけだったのです。

投資に対しての利益を、エンジニアリングによる省人化などによって効率化していくことが目的だった。そして次なるステップは、どうやればもっと複雑たり得るか?

人間の持っている教養や文化性を、サービスや製品にどう取り込めるかにアプローチが移行していくのは極めて自然なことだと思います。それらに対する造詣や、背景から語れるということは、グローバルな視点からも共感を得やすいことだと思っています。

 

デジタルネイチャーというシンプルな概念

竹田 - 落合さんの著書の中で登場するデジタルネイチャーという概念にたいへん興味を持ちました。

技術が進化したその先に、デジタルとネイチャーの境目がなくなるという、デジタルネイチャーの概念について詳しくお話しいただけますか。

落合 - アナログとデジタルって何でしょう。視覚という機能は、目の前のアナログの情報を網膜で量子的なドット模様のデジタル情報に変換して視神経を経由して脳で処理されますよね。それが「見えている」ということです。

そもそも生物のDNAだってデジタル情報です。そう考えると、生物はすべからく大きなデジタルコンピュータ的であることは間違いないわけです。

人間というデジタル計算機と、コンピュータというデジタル計算機には、何ら境目がなくなっていると思いませんか。我々はコンピュータと共に、自然を再発明しているのではないかという感覚です。

コンピュータの中の自然、コンピュータの外の自然に対して、人間の解像度は、もはや区別がつかなくなってきているのです。

竹田 - 大阪青年会議所が掲げる経済成長ビジョンのひとつに、再生医療に注目し医療特区を活用した生涯活躍都市構想があります。今後の人口減少を好機ととらえ、ソフト分野での再生医療、ハード分野での医療・介護ロボットなどがもたらす可能性について、どう感じておられますか?

落合 - 特にハードの可能性はすごく大きいと思っています。

日本が得意にしてきた品質管理や工程管理などがとても重要な要素だからです。今後、こういった日本の誇る、安全や安心を、どうブランディングしていくのか。

関西の精細な技術を持った〝ものづくり〟を実践している企業群はグローバルな観点でも評価されていくと思います。それらの品質保証能力は圧倒的に世界に誇れるものだと思っています。日本は丁寧な仕事が得意なんです。

これからのリーダーそして人材とは

竹田 - 大阪の中小企業も大いに期待が持てますね。

さて大阪青年会議所のメンバーは、中小企業経営者や企業におけるリーダーと呼ばれるメンバーが多くいます。これからの時代のリーダー像について、落合さんはどんな見解をお持ちですか?

落合 - 会社の象徴としてのリーダーの存在が近代での特徴でした。しかしこれからは多様な余地、言い換えるとアソビの感覚がリーダーに求められていくのではないかと思います。

何かを強いるリーダーではなく、様々なツールを駆使して、全体にストレスをかけずにやっていく、弱いリーダーの活躍の時代がやってきています。

竹田 - ビジネスや社会を離れた一個人として、これからの時代を生きて行くためには、どんなことが重要になるのでしょうか?

落合 - その人にしかみえない視座、視差といったものを認める意識が重要です。様々な事象を、あらゆる角度や視点から凝視する。それを考えるというのは、とても深まっていくことだということです。立場や状況が違ってもフェアであるというのも大切なポイントです。

深いコミットメントは、深い集中力から生じるのではないかと思います。

竹田 - なるほど。最後に、落合さんの考える「突き抜けた人材」の条件とは?

落合 - 今まで価値のないものを価値があるといえる人、それを証明してみせる人材でしょうね。

そのためには、違う視点を持って、その視座にどれだけフォーカスしていくのかが重要です。やはり深い集中を持続できる人材が革新を推進していくのだと思います。

竹田 - 深い集中力をもって、異なる視点を組み合わせることができる人材が次なる革新を起こす。まさしく私たちの考える「突き抜けた人材」です。本日は、ありがとうございました。

落合 陽一 氏(メディアアーティスト)プロフィール

1987年生まれ。メディアアーティスト。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了(学際情報学府初の早期修了)、博士(学際情報学)。

筑波大学学長補佐・准教授・デジタルネイチャー推進戦略研究基盤 代表。ピクシーダストテクノロジーズCEO。

2016年Prix Ars Electronica、STARTS Prizeなど国内外で受賞多数。著書に『魔法の世紀』(PLANETS)、『日本再興戦略』 (NewsPicks Book)など。

落合先生の研究紹介

Levitrope: 身体性を感じるための重力,計算機自然.身体性を意識させる計算機自然的作品。

我々のイメージする計算機自然の世界はきっと浮揚の身体性とのリンクが外れていく世界だろう。

この世界のあらゆるものが重力という「現状の自然」から自由になったように見える世界が「計算機自然」ともいえる。それゆえ、浮揚による身体性への回帰、そしてそれが平常的に見えるインスタレーションによってその先の自然、「宇宙的な重力下」を思わせるというものをテーマに作ることにした。

Levitrope(レヴィトロープ)は作品として、そういった計算機自然を表現した。

外見上は銀で出来た球と鏡面仕上げの回転機構で出来ていて、その見た目は日常的な環境、青空と芝生と野球場という環境を切り取って映し続ける。夜には照明や月や星を、昼には喧騒と緑と青空を、その現実の鏡像は重力を超えて我々の身体性を映し出していたように見えた。

写真:Yahoo!JAPAN、オープンコラボレーションスペース「LODGE」にて開催のジャパニーズテクニウム展の展示作品より

LOCATION

LODGE : Yahoo! JAPANのオフィス内に誕生した日本最大級のオープンコラボレーションスペースです。「『!(びっくり)』を生み出す場所」として新たな事業やサービスにつながるイノベーションの創出を目指します。落合陽一さんもこちらで展覧会を開催するなど、テクノロジーやアートによる交流も盛んです。ぜひ、東京にお越しの際にはお立ちよりください!

アクセス:東京都 千代田区紀尾井町1-3 東京ガーデンテラス紀尾井町2F エレベーターより18F受付にお越しください
URL:https://lodge.yahoo.co.jp/

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