活動報告
今回は大阪の経済界を牽引されているサントリーホールディングス株式会社代表取締役副会長の鳥井信吾様に大阪経済の活性化だけでなく、100年以上続く、創業当時から掲げられていた利益三分主義の考えと第43代理事長を務められたご経験から今の大阪青年会議所に期待することを伺いました。
創業以来変わらないサントリーの
公益資本主義的発想とは
竹田 - 本年度、大阪青年会議所(以下、大阪JC)では、正しい経済、経営を行っていくことで、日本再生を牽引していく民間主導の経済成長が実現できると考え、政策を推進しております。われわれ経営者自身が正しい経営を行っていかなければならない。
世界では、利益追求型の資本主義から公益資本主義に移っているのも確かです。サントリーさんは、創業以来「利益三分主義」を掲げられていて、今の発展につながっていると思うのですが、公益資本主義という側面から、御社の経営理念と、それにまつわるエピソードからお聴かせください。
鳥井 - 今の日本の社会をみると、〝分断が深まっているな〟とすごく感じています。企業内でいえば経営者と従業員、業界でみると企業と企業、そして政治家、行政や官僚、またそれらと、実際の生活者が分断されているような印象を持っています。各セクターが、お互いの立場や事情がよくわからない。かつては、もっと密な時代がありました。もちろん悪い面もありましたが、今と比べて、どこか風通しが良かったと思います。これだけIT技術が発展して、情報が共有化されているはずなのに。とても不思議ですね。
竹田 - 分断されてお互いの考えがわからないから、それぞれが自己主張に終始して、ものごとを進めているということですね?
鳥井 - そうです。感覚的に感じているのはそういうことです。そういう中で企業の公益資本主義を考えた場合、株主利益の短期的な最大化を目指さなければならない上場企業においては、なかなか難しいことだと思います。
弊社は非上場ですので、公益資本主義的な理念を実践しやすい環境があったのは確かです。創業理念のひとつである「利益三分主義」に関しても、そういう土壌があったからこそ発展出来たのではないかと思っています。
サントリーには5つの財団があります。
サントリー文化財団、サントリー芸術財団、サントリー生命科学財団、社会福祉法人邦寿会、学校法人雲雀丘学園。それらを通して社会にアプローチしています。サントリー文化財団では、サントリー学芸賞、サントリー地域文化賞などによる、若手研究者や団体への支援活動をはじめ、政治思想、芸術文化、経済、教育など、その時代に合わせたあらゆるテーマでの研究会、書籍やシンポジウムなどにおいて社会へ還元しています。
また、サントリー生命科学財団はサントリーの事業に直接関係のない基礎研究を行っていて、科学人材育成の助成などを行っています。
竹田 - それは、まさしく長期的な投資と言えますね。
鳥井 - 確かに短期的な利益にはつながりません。しかし中長期に企業が社会に認められ、収益を維持できることにつながります。
竹田 - 本年度、大阪JCではスローガンの中に「未来への投資」というキーワードも掲げていますが、まさに御社の公益資本主義は人材育成の側面も併せもっていらっしゃるということですか。
鳥井 - そう言えると思います。たとえば、サントリー美術館には学芸員が9人います。その人たちの高度な専門知識は、われわれの商売に直接的に利益をもたらすものではありません。
しかし、そういった優秀な学術系の人々と、弊社の社員との交流によって、お互いに大きな刺激となって、世界が広がり視野が広がっていくこともあるのです。
単にウイスキーを造って売っているだけではない。コミュニケーションが双方の想像力を刺激し合っているという意味で、文化は非常にインセンティブのあることだと位置づけています。
竹田 - いわゆるリクルーティングという意味で、ブランド力自体も底上げするという効果も考えられますね。そういった発想を推進する上で、何が大切になるのでしょうか。
鳥井 - 創業時のエピソードで、終戦当時に、鳥井信治郎が街にあふれるお腹を空かせた人たちを目のあたりにして、「すぐに粥を炊いて配れ」と指示をしたそうです。側にいた社員が「ここに居る人だけを助けても、今は日本中が同じ状況ですから意味がないですよ」と言ったそうです。それでも信治郎は炊き出しを断行するわけです。
損得を考えずに即断実行する行動力。人の情をもとにしたシンプルな発想が源泉ではないでしょうか。「見て見ぬふりはしない」ということです。
企業の継続的発展と世界の持続的発展が
SDGsでつながる時代へ
竹田 - 本年度の大阪JCの政策として、国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)を推進する事業を掲げています。
サントリーさんは「水と生きる」企業として、環境問題への取り組みを進めておられますが、企業としてのSDGsの意義、そして活動について教えて下さい。
鳥井 - まず第一に、水に関してです。弊社の商品はすべて水を使っています。
持続可能な豊かな地球環境を次世代に引き継ぐため、水を育む森づくり「サントリー天然水の森」活動を行っています。その範囲は年々増え、現在は約9000ヘクタールにもなります。工場で使う水の2倍の量を自然に還すという大目標を立てており、その活動を世界にも広げていこうとしています。
それと並行して節水の取り組みも行っています。2016年には、サントリーグループの工場での水使用原単位は07年比29%の削減となりました。これをさらに推し進めて、2020年までに35%の削減に挑戦しています。
竹田 - 今やどんな事業を行っていくにも、SDGsへの取り組みは、もう当たり前のことなんですよね。
鳥井 - それはもう当たり前です。取り組んでいない企業とは取引しないという企業がヨーロッパなどでは増えていますし、消費者に信用されないですから。
竹田 - 企業の継続的発展と世界の持続的発展というのは、まさしくイコールだという例ですね。
若き大阪JCにしか出来ないことが、新しい大阪を創る
竹田 - 鳥井副会長も大阪JCの第43代理事長としてご活躍された大先輩ですが、大阪JCはどんな存在なのでしょうか、そこから学ばれたことも多かったですか。
鳥井 - 堅苦しくいえば〝修行道場〟。柔らかくいえば〝楽しい学校〟ですね。自由だけどある種のまとまりのある組織です。
社会人になってからの利害関係の無いネットワークを創れる数少ない場ではないでしょうか。歴代理事長の佐治敬三、鳥井道夫、鳥井信一郎も大阪JCで知り合った友人とは生涯つきあったようですね。
密で特殊な関係を築けるのが大阪JCの最大の魅力だと思います。
竹田 - 大阪は2019年のラグビーW杯、2025年の国際万博招致というチャンスの時期を迎えているように思いますが、その中で大阪JCの果たすべき役割、そして現役メンバーへの言葉がございましたらお願いします。
鳥井 - まず、大阪JCをより好きになってほしいですね。いろいろな側面があるでしょうけれど、JCの良いところを探してほしい。会員の皆さんは仕事とのバランスが難しいところだと思います。でも少しだけでもJCへの活動領域に割けるように努力してほしいです。
そして、各経済団体、行政、大学、マスコミ各社、NGOやNPOなど、多くの異なるセクターとの連携をもっと深めていってほしい。その原動力である若さを持っているのが大阪JCのメンバーです。メンバー自ら汗を流せるのはJCだけだと誇りに思ってほしいです。
竹田 - そういった大阪JCの行動力をもって、他のセクターとの横のつながりを強化することが大事ですね。
まさに鳥井信治郎さんの仰っていたという「やってみなはれ!」の精神で、さまざまなチャレンジが出来るのが大阪JCだということですね。
鳥井 - そうです。こんな汗を流せる団体は他にはないです。がんばってください。
サントリーの文化・社会貢献活動について
創業者・鳥井信治郎の「利益三分主義」の精神に基づき、創業時から現在まで変わることなく、人々の豊かな生活の実現に寄与する文化・社会貢献活動に取り組んでいます。
1921年、生活困窮者救済のために無料診療院開設を機に創立された「邦寿会」は、現在は社会福祉法人として特別養護老人ホーム等の運営を行なっています。
学校法人「雲雀丘学園」は、鳥井信治郎が1950年に初代理事長に就任して以来、幼稚園から高等学校までの一貫教育を支援。その他3つの公益財団法人、サントリー芸術財団は「サントリー美術館」や「サントリーホール」の運営のほか、次世代への教育普及活動を、サントリー文化財団は「サントリー学芸賞」や「サントリー地域文化賞」の贈呈、人文科学・社会科学に関する学術研究や出版助成を、サントリー生命科学財団は生命科学と生物有機科学を基盤とする研究活動や人材育成事業を行なっています。
さらに、ラグビー部「サンゴリアス」、バレーボール部「サンバーズ」の選手が子どもたちを直接指導するクリニックや、チャレンジド・スポーツ支援、被災地支援など多岐にわたる活動に取り組んでいます。